第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想（１０２）
クラスのアイドル2人に挟まれ、鼻の下をグイーングイーンと長く伸ばしながら、サンバのリズムに乗って教室へ入って行くと、突然、中から大きな歓声が沸き起こったのである。
そこには生徒とともに、校長を筆頭に教頭や学年主任、PTA会長の正直屋の権さんや何人かの大人がいた。
その中でタケが不気味に思ったのは、クラス担任の横尾王子が、笑いながら拍手をしていたことだった。
彼は常に激怒していて、ヒョツトコみたいにしかめっ面しかしていなかったからだ。
しかも、今日はポマードをズドンと効かして、自慢の１９分けを決めていた。
・・・オレは、何かとんでもないことをヤラカしてしまったのか・・・・・！
・・・またしても、担任の１９分けに罵倒されるのだろうか・・・・・！
ハツの体は条件反射で反転し、出口の方へ向かっていた。
しかし、そこにはクラスのアイドルである№１のタマ江さんと、№２のミホ子さんが立ちふさがっていたのである。
・・・万事休す・・・これで、今日の運はすべて使い果たしてしまった・・・！
全身の力が抜けて、彼はヨロヨロと床に座り込んでしまったのだ。
！！！！！！！！！！！！
「こんにちは、こんにちは・・・イナリ山支局の突撃隊長こと、稲荷山太郎です・・・！」
とんがり帽子をかぶったオッチャンが、いきなりマイクを向けてきた。
「何はともあれ、昨日の新記録、おめでとうございます・・・！」
キツネにつままれたかのようにポカンとしていると、突撃隊長はマシンガのように質問をぶつけてきたのである。
「すごかったですねー、すごかったですねー・・・いやー、見事でした、大興奮でした・・・早速ですが、感想をお願いします・・・！」
ハツは、まだ状況を充分にのみこめていなかった。
「・・・カンソウは、イモです・・・？」
追い詰められた彼は、チミー隊長のジョークをマネして、なんとなく言ってみた。
一瞬、クラスに静寂が訪れたが・・・・・・１９分けの拍手で、さらなる追い打ちをかけられた。
「いやー、すばらしいですねー・・・この冷静さ、謙虚さ・・・どんな時にも、周囲に配慮しているのですねー・・・場が和みます・・・人格者ですね・・・！」
突撃隊長は、勝手に解釈をして一人で盛り上がっていた。
「それでは、担任の横尾王子先生にインタビューをしてみましょう。先生、彼はどんな生徒さんですか・・・？」
１９分けは、しばらくの間、返答に窮していたが、ヒョツトコ顔からオカメ顔に変身してペラペラと話し出した。
「彼は、５人兄弟の長男です。長男らしく、兄弟の面倒を良くみています。しっかり者ですよ。クラスの皆から、尊敬されています。イナリ山小学校の誇りですね。私の自慢の生徒です。」
彼は、思いつくままに、歯の浮くような言葉を並べていた。
「続きまして、校長の光山光太郎先生にインタビューをしてみましょう。」
突撃隊長は揉み手をしながら、校長にマイクを向けた。
校長は名前のとおり、LEDライトのような頭をしていて、生徒からは「ヒカリ」と呼ばれていた。
「私の長い人生で、このような天才に巡り合えたことは、光栄極まりないことです。イナリ山の財産です。すばらしい環境下で、大事に育てたいと思います。いやー、すんらしいー、すんばらしー・・・！」」
ハツにとって、一度も言葉を交わしたことのヒカリは、少しナマリながら恐縮していた。
「ありがとうございました、校長先生・・・彼の未来は、校長先生のように光かがやいていると思います。今後の活躍が、イナリ山全体を優しく照らすでしょう。」
一瞬、彼はLEDライトをチラリと見て、すぐに口を左手でふさいだ・・・やがて、気を取り直して、再びハツにマイクを向けた。
「やはり、目指すものはオリンピックでしょうか・・・！」
突撃隊長は、頭を縦に振りながら勝手にうなずき、予想された返答を待っていた。
だが、置いてきぼりをクラってしまったハツは、何んて答えたらよいものか思案していた。
・・・やがて・・・いつものように歌うことにしたのだ。
「♪皆の衆 皆の衆 嬉しかったら腹から笑え・・・・・♪」
ハツはニギニギしく椅子の上に登り、「皆の衆」を歌いはじめた。
これは、作詞 関沢新一 作曲 市川昭介 歌手 村田英雄で、大ヒットを飛ばした曲だった。
彼は、器用に手踊りをしながら、熱唱を開始した。
「♪悲しかったら 泣けばよい 無理はよそうぜ、体に悪い・・・・・♪」
最初は静かな教室だったが、やがて手拍子が始まり、おおいに盛り上がった。
アンコールが何度も飛び交い、彼の美声は学校中に響き渡ったのである。
その結果、翌月のイセサキ広報の表紙を飾ったハツ君は、歌って走れるヒーローとして、大々的に紹介されたのである。
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー
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【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス