第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(92)
「ウ・キョ・キョ・キョ・キョ・・・ウ・キョ・キョ・キョ・キョ・・・!」
ミコト婆さんの家で正直屋の「割れせん」をご馳走になっていると、突然、鼓膜を破壊するかのような、大きな叫び声が聞こえてきたのである。
「ウ・キョ・キョ・キョ・キョ・・・ウ・キョ・キョ・キョ・キョ・・・!」
常人より1オクターブも高い音域、人をイラつかせる笑い声、知らない人はモグリだと言われる・・・そう・・イナリ山村民なら子供から大人まで誰もが一度は遭遇したことがある人物・・・あのお方は、・・・五大超人の一人・・・?
ハツが、怖いもの見たさに、そっと障子をあけると、そこにはツル大先生が毅然としたお姿で直立していたのである。
寒さからなのか、いつもは上半身が裸であったが、今日はランニングシャツとガラパンツを着用していた。
そして、彼の体から、赤城おろしに乗って、プーンと濃い目のアルコール臭が漂って来たのだ。
いつものように、赤城印の一升瓶をぶらさげて、頬を真っ赤に染めながら、絶叫を繰り返したのである。
しかし・・・何故だ,何故だ、何故なんだーーー!
何故、ツル大先生がここにいるのだーーー!
タヌキ顔のツル大先生は、今日もたんとゴキゲンのようだった。
「諸君、キミたちには勉強が一番だ・・・ワシを見ろ・・・ワシはミスター勉強家だ・・・勉強会のスーパースターじゃ・・・酔ってなんかいねーぞ・・・ごほうびに勉強水をいただいているのだ・・・これを飲んで、勉強水を研究しているんじゃ、イナリ山に勉強革命を起こすのじゃ・・・レボリューションじゃー・・・まいった・まいった・まいったもんじゃ・・・もんじゃ焼きを食いたいかーーー!」
勉強会のスーパースターであるツル大先生は、ダジャレをカマしながら、一心不乱に八木節を踊りだしたのである。
「まったく、コリねーなー、あの野郎、いい迷惑だ・・・!」
ミコト婆さんは、そうツブやくと、ガラガラと引き戸を開けて出て行ったのである。
そのまま全速力で堤防を駆け上がると、ヒョイと着物の裾をまくり上げ、両足を1メートルほど開き、見事な逆V字型のフォームを取ったのだ。
「これでもくらえーーー!」
シューシューという音を響かせて、ストライクのマークから、ジェツト噴射を開始したのである。
もちろん攻撃対象は、ツル大先生である。
太陽の光をあびて、7色の虹が出現した。
逆光の中、股の間から顔をのぞかせて、狼狽するツル大先生を目視しながら、ヨーシヨーシとつぶやいた。
アンモニア臭とアルコール臭・・・パンチの効いた二人の戦いが、今まさに始まったのである。
だが・・・激戦が予想されたにもかかわらず、1分程であっけなく勝敗がついてしまった。
ツル大先生は、ジェツト噴射の前になすすべがなかったのである。
彼は、一升瓶を両手で抱えて一目散に逃亡してしまったのだ。
おそるべし、ミコト婆さん・・・太陽を背にして戦うお姿は、まさにイナリ山の「太陽神ラー」であった。
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ツル大先生は、先代のクマ爺さんから聞いた土地の所有権のことで、ミコト婆さんに色々と難癖をつけていたようだった。
それは、第二次世界大戦の後、農地改革が行われ、農民を民主化するために、農地が解放されたことだ。
目的は、封建的な地主制を解体するもので、政府は地主から小作地を買い上げて、多くの自作農を作った。
クマ爺さんは、酔った勢いで先代より支配していた農地を農地改革で取り上げられたと幼いツル大先生に無理やりスリ込んだのだ。
実際のところ、彼も小作農で、改革により恩恵を受けた者の一人であったが、農地を取得したことで、いつしか大地主の気分になってしまったようだ。
お門違いも甚だしいのだが、ツル大先生は、酔うとクマ爺さんのことばを思い出して、土地の権利を主張して、ミコト婆さんの家に押しかけてくるようになった。
今日も、勢いに任せてやって来たのだが、強烈なジェツト噴射により出鼻をくじかれてしまったのだ。
彼は、もともと歴史の先生であったが、酒が入ると気分が高揚し、現実を忘れて大地主の気分になってしまうようである。
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス